ハノイの公務員の家庭に生まれたドー・ティ・トゥー・ハー(31歳)は、北部ラオカイ省サパ郡の少数民族の人たちから「薬草のハー」と呼ばれている。ハーは2005年にサパ薬草社を立ち上げた人物だ。
ハーはハノイ総合大学で植物の種保存に関する学問を学んだ後、イギリスの環境NGO(非政府団体)「ソサエティ・フォー・エンバイロンメンタル・エクスプロレーション」に就職、2002年にニュージーランドと欧州連合(EU)の国際開発基金が支援する「サパ薬草開発計画」のコーディネーターに任命される。この計画はサパで暮らす少数民族の生計基盤を改善すると共に、絶滅の危機にひんしている植物の保護を奨励することを目的としていた。
3年の間にこの計画は非常に多くの成果をあげた。過度の開発で絶滅しかかっていた植物が、今では貴重な収入源として保護されるようになっている。こうした植物は数種類になるが、この計画の一番の成果は、これらの植物がうつや物忘れなどの現代病に効果のあることが研究の結果わかったということだ。
例えばある植物の根は、皮膚がんを抑制する物質を含有しているという。もし研究結果が科学的に証明されれば、サパの人たちにとって大きなチャンスとなり得る。この計画による成果の所有権はサパの人々の利益になるよう守られているからだ。さらにハーはこの計画が終了した後、計画の成果を商品化して商業ベースにのせるため会社を設立しようと考えた。こうして2005年にサパ薬草社が誕生した。現在同社では、栽培した植物をオーストラリアやニュージーランドへ輸出する手続きを始めている。
同社は2007年の「環境開発のための起業家支援(SEED)賞」を受賞した。この賞は約70カ国の民間企業、NGO、社会団体など230団体の中から5団体が受賞したもの。ハーはこの賞の受賞について、同社の計画がサパの人々の生活に与える可能性の大きさを世界に認められたあかしだと語る。
SEEDの助成枠には協働事業プランも含まれるという。SEEDの広報担当者によると、この助成は共同事業の実施や人材育成、さらには財政支援も含まれる。この助成を活用してサパの薬草が世界の市場にデビューする日もそう遠くはないだろう。