グエン・ビック・ランさんはこの17年間、足が不自由でほとんど外に出ることがない。でも彼女は「目と心と頭」を使って世界中を駆けめぐることができる。
第7学年(日本の中学生に相当)のとき、彼女は病気で2年間の入院生活を余儀なくされた。退院して病状が大分良くなった後も、脚はやせ細り身体も弱りきっていて、希望は何も残っていないかに見えた。
14歳のとき、ベッドに横になって窓の外を眺めていると、子どもたちが英語の練習をしている声が聞こえてきた。自分もそれにあわせて声を出したりしているうちに、一緒に勉強したいと思うようになる。初めのうちはテキストの例文をじっくり読んだり書いたりして、解らないところがあれば子どもたちに尋ねに行った。そのうち文法についても理解できるようになり、新しい単語も次第に覚えてくる。ネイティブの会話を聞いて発音を練習するために、両親にねだってカセットデッキを買ってもらった。
それから3年が過ぎ、ランは高校で習うレベルの英語をマスターした。その後、ハノイから知り合いが送ってくれた大学の英文科学生向け教科書に進み、4年間ですべてのカリキュラムを修了。そして2002年、もともと文章が好きだった彼女は英語の技能を活かして翻訳の仕事を始める。インターネットを通じて読んだ海外の作家の文学作品を翻訳する仕事だ。
オンラインで海外の作家たちと交流する中で、ランは彼らの共感を得ることができた。そのおかげで、彼女はたくさんの海外文学作品の翻訳を任されるようになる。「シャーリー・チェン(Shirley Cheng=生まれつき目の不自由なアメリカの作家)とお話した時は、彼女の才能に感服しました。彼女はさまざまな困難を乗り越えてきた経験を語り合える友でもあります」
外出は困難なので、行動範囲は郊外にある家の部屋の中。およそ10平米の部屋は、夏の初めともなるとかなり暑い。そんな中、ランは毎日熱心に翻訳に取り組む。「夢中になってやればやるほど、完成した時の喜びは大きいの。インターネット上で作家たちと交流するたびに、世界が広がったように感じるわ」
「病気のせいで17年間ほとんど自分の家から出ることができなかった。でも、その病気も外の世界に出たいという私の願望と決心をさえぎることはできなかったわ」。ランの挑戦は今も続いている。アメリカの敬愛する作家シャーリー・チェンの翻訳本が出版されたら、彼女は体の不自由な子どもたちのための社会支援センターを訪れて、本を寄贈しようと思っている。