女性操縦士マリー・ヒエン「故郷の空を飛びたい」

2007/04/22 08:39 JST配信

 カナダに生まれ、小さいころからボーイングやエアバスのパイロットになりたいと思い続けてきた。一番の夢は、愛する故郷ベトナムの空を自由に飛びまわることだった。

 マリー・ヒエン・グエン(以下、ヒエン)が操縦士を目指していることを知って、家族は驚いたに違いない。父は映写技師、兄は技師ではなく演出家の道に進んだ。そして小さいころから男の子のように元気で一カ所にじっとしていられない性格だったヒエンは、芸術とは全く関係のない道を選んだ。母は危ないからと反対したが、父は頭がよく行動的な娘の選択を支持してくれた。

 2003年、ようやく母親の理解を得ることができたヒエンは、ケベック操縦士養成所に入るための試験勉強を始めた。この選択によって、彼女は家族と離れて暮らすことや、3年間の厳しい訓練の前に待ち受けている非常に難しい試験に立ち向かうことになった。

 ケベック操縦士養成所は国の機関で学費が全額免除されるため、入るのは非常に狭き門だ。まず論文、数学、航空に関する筆記試験で400人の受験生が100人に絞り込まれる。その後健康診断、視力検査、機械室での操作試験を経て、最終的に40人が選ばれる。ヒエンは40人のうちただ一人の女性だ。ヒエンは男性たちに「道を誤ったベトナム人の女の子」と思われまいと、必死で頑張る決意を固めた。

 試験の後には、3年間の厳しい試練が待ち受けていた。1年目は理論の学習と軍隊のような訓練に耐えて、不測の事態に備える精神を鍛える。2年目には4人乗りの小型機でモントリオールでの飛行訓練。これは3年間の中で最も緊張する実習だ。訓練機を借りるために必要な費用は1時間当たり100ドルかかる。

 学生は最低200時間以上の飛行訓練を受けなければならず、2回失敗を犯しただけで即退学となる。「初めて操縦席に座った時、自分が軽くなったような不思議な感覚を覚えました。かもめが大空を自分の翼で飛んでいるような」。初めのころは慣れなくて不安だったが、次第に楽しくなってきたという。夜間飛行訓練では月や星が輝く中を飛び、自分の魂が空に広がっていくような感じで、とてもロマンチックな気分になったという。

 3年目になるとさらにレベルは上がる。訓練機は大きくなり、緊急時の離着陸や悪天候下での操縦など危険や不測の事態への対処を学ぶ。「平常心を保てなければ、操縦の手がおろそかになり、墜落の危機を招いてしまうわ」とヒエンは言う。卒業の日には両親を乗せて飛行した。ケベック初のベトナム人女性操縦士の誕生の瞬間だ。彼女の夢は実現したのだ。

 2006年の夏、3年の養成コースが終了すると、学生たちは自分で就職先を探さなければならない。卒業して2週間後、ヒエンは幸運にもカナダの学校で操縦を教える職を得た。同時に勉強好きの彼女は将来を見据え、経営学を勉強する準備を始めていた。夢が実現し、先生や友人にも愛され、何もかもがうまくいっているようにみえる彼女。しかし彼女の心からはいつもベトナムという言葉が離れなかった。故郷を離れて暮らすすべてのベトナム人と同じように。

 彼女はこれまで故郷を訪れたことがなく、両親の言葉や本から得た知識をたよりに想像するしかなかった。そして今、彼女は故郷ベトナムにいる。彼女の夢はまだ続いている。それはベトナム航空のパイロットになることだ。そのため、彼女は今ベトナムの航空業界が彼女をパイロットとして受け入れる条件を整えてくれることを望んでいる。また、父と兄がベトナムで映画を作ることを計画中で、「映画の中で空からのシーンや飛行機の操縦シーンなどがあれば、ぜひ参加したい」と彼女は話している。

 操縦士と聞くと、多くの人は男勝りの女性を想像するに違いない。しかし一度でもヒエンに会ったなら、彼女が母親譲りのベトナム女性のやさしさと父親譲りの芸術的センスを持った女性だということが分かるだろう。また彼女はフォーやバインセオ、バインクオンといったベトナム料理を作るのも得意だ。

 ピアノを弾くことやテニスやバドミントンなどのスポーツも好きだという。今年ヒエンは初めてベトナムでテトを過ごしたが、それはとても楽しく、また彼女の目にはとても物珍しく映ったようだ。今年年女の彼女は、いつかベトナムの航空業界で働くことを夢見続けている。

[平成19年3月20日 Thanh Nien紙 電子版]
※VIETJOは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。
© Viet-jo.com 2002-2024 All Rights Reserved 免責事項

この記事の関連ニュース

 「このほど小型旅客機から中型旅客機の担当に変わりました」。グエン・ティ・タイン・トゥイーさん(31...

新着ニュース一覧

 カンボジア公式訪問を開始したチャン・タイン・マン国会議長は21日、カンボジアの首都プノンペンで、同...
 ベトナム共産党政治局・書記局は20日に開かれた会合で、政治局員・国会共産党連合会書記・国会議長在任...
慣れない海外生活、急病や事故
何かあってからでは遅い!
今すぐ保険加入【保険比較サイト】
 ワインの輸入販売などを手掛けるエノテカ株式会社(東京都港区)は11月25日、ホーチミン市1区のホーチミ...
 午後3時、ハノイ市ハイバーチュン区ファムディンホー街区在住のグエン・ゴック・クアンさん(男性・61歳...
 住商アグロインターナショナル株式会社(住商アグロ、東京都千代田区)は、ベトナムの農業資材販売会社で...
 ベトナム最大の企業管理職向けソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を運営するアンファベ(Anph...
 南部メコンデルタ地方カマウ省人民委員会は19日、ダムゾイ郡でダムゾイ・カイヌオック・チャーラー(Dam...
 ホーチミン市人民委員会は21日、12月の商業運転開始を予定している都市鉄道(メトロ)1号線(ベンタイン~...
 21日から23日までの日程でマレーシアを公式訪問中のトー・ラム書記長は21日、最高儀礼に則り盛大に執り...
 ドミニカ共和国を公式訪問中のファム・ミン・チン首相は現地時間20日、ルイス・ロドルフォ・アビナデル...
 米不動産サービス大手クッシュマン&ウェイクフィールド(Cushman & Wakefield=C&W)がこのほど発表した...
 南中部高原地方総合病院は19日、自宅で調理したヒキガエルの肉と卵を食べた児童2人が中毒を起こしたと...
 ベトナム国家大学ホーチミン市校(ホーチミン市国家大学=VNU-HCM)傘下の政策開発研究所が先般発表した...
 医療機関向けパッケージソフトウェアの製造・販売を手掛ける株式会社エクセル・クリエイツ(大阪府大阪...
トップページに戻る