前回の記事で、 日越カップルの子供の名前のつけ方 について幾つかのパターンを紹介しましたが、今回は「名字(姓)」について取り上げたいと思います。子供の姓は、日本とベトナムで同一のものにすることはできるのでしょうか。日本とベトナムの両国で出生を届け出ることを前提に説明します。
日本での届出は・・・
日本では、外国人配偶者との間にできた子供の名字は、基本的に日本人である親と同一のものを届け出ることになっています。基本的に、ベトナムでは結婚後に夫婦が同じ姓にならないため、日越カップルの多くは夫婦別姓のままとしているケースが殆どだと思います。その場合、日本側の届出では、日本人の親のみと同じ名字となるということになります。
それでは、子供の名字を外国人配偶者のものと同じにはできない? いえいえ、手続きが面倒ではありますが、 外国人配偶者の名字と同じにすることも可能 です。方法は、以下2つがあります。
(1)婚姻後6か月以内に日本人の親の姓を外国人配偶者の姓に変更しておく
(2)出生後に子供の姓を外国人の親の姓に変更するよう家庭裁判所に申し立てる
(1)と(2)を比べると、(1)の方法のほうが手続きが簡単です。
まず、 (1)婚姻後に日本人の親の姓を外国人配偶者の姓に変更する について。日本で国際結婚の婚姻届を提出しただけでは、日本人の名字は変わりませんが、婚姻の日から6か月以内に市区町村の役所または在外公館に届け出ることで外国人配偶者の姓に変更することができます。その場合、「グエン」というようにカタカナ表記(婚姻届に書いた配偶者の姓と同じ表記)になります。また、日本人の親が家庭裁判所に届け出て複合姓、例えば「グエン鈴木」に変更していた場合、子供の姓は「グエン」だけにはできず、「グエン鈴木」になります。
次に、 (2)出生後に子供の姓を外国人の親の姓に変更するよう家庭裁判所に申し立てる という方法です。一旦出生届では日本人の親の姓で届出し、その後家庭裁判所へ「氏変更の申し立て」をして許可が下りれば、外国人の親の姓に変更することができます。この場合、日本の戸籍は同一籍に違う姓が入ることができませんので、子供だけ親とは別に単独戸籍を作ることになります。日本の裁判所に出向かねばなりませんので、手続きはかなり面倒ではありますが、自分の姓を変えたくないけれど、子供には外国人の親の姓を受け継がせたい場合は、この方法で可能になります。
ベトナムでの届出は・・・
さて、ベトナムでの事情を見てみましょう。ベトナムでは結婚しても夫婦が同じ姓になることはありません。法律では 「出生届けの際、子供の姓については、慣習または母親と父親の合意により、母親または父親の姓を登録する」 となっているだけで、 外国人の親の姓を登録できないという定めはありません 。そのため、パスポートに日本人の親の姓が「Suzuki」と記載されていれば、子供の名字も「Suzuki」として登録することが可能です。
実際に日越カップルの中にも、ベトナムで出生を届ける際、子供の姓を日本の姓で届け出て受理されたケースが幾つかあります。但し、ベトナムの出生届で外国姓を登録するケースは数が少ないため、地方や担当者の解釈によって対応はまちまちで、日本名での登録を拒否される可能性もあると思われます。事前に地方当局に確認しておいたほうがよいでしょう。
また、ベトナムでは外国の姓を持つことで、 前回の記事 で書いたような学校などでのいじめや差別の問題だけでなく、進路の選択にあたって大きな不利益を被る可能性があります。例えば、ベトナム国籍を保有していても、外国籍を持ち外国姓を名乗っている場合、担当者によっては「ベトナム人として生きていくつもりがない → 外国人である」とみなし、公立学校への受け入れを拒否したり、入学の優先順位を低くするという可能性が考えられます。
ベトナムでは法律に詳細が規定されていない分、珍しいケースについては担当者の裁量で適当に扱われるのが現状ですので、子供を一般的なベトナム社会の中で育てる可能性があるのであれば、思いもよらない不利益を被る可能性について考慮しておいたほうがよいと思います。
まとめ
今回の記事をまとめると、子供の名字には次のようなパターンが考えられます。
例)父親の姓: Nguyễn
母親の姓:鈴木(Suzuki)
ベトナムで届け出る子供の姓:「Nguyễn」、「Suzuki」ともに可能
日本で届け出る子供の姓:「鈴木」のみ可能
→子の出生前に母親が姓を「グエン」に変更した場合、または家庭裁判所の許可を受けた場合:「グエン」が可能
→子の出生前に母親が家庭裁判所の許可を受けて姓を「グエン鈴木」などに変更した場合:「グエン鈴木」などが可能
近年「キラキラネーム」が増えてきた日本では、「子供の姓名が性格や行動に影響を及ぼす」「姓名のせいで差別的な扱いを受け不利になる可能性が高い」といった研究結果がよく話題になっています。「名は体を表す」ではなく、「名が体を作る」という人もいます。その真偽はともかく、子供が日本の名字を持つことで、日本人としての自分を意識する、ベトナム人の名字を持つことで、ベトナム人としての自分を意識するというのは間違いないでしょう。子供名前に正解はないですが、今回の記事が少しでもお子さんの名づけの参考になればと思います。
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