日本と比較すると、ベトナムでの食事マナーはあまり厳しくありませんが、全くないわけではありません。外国人が知らないでやってしまっても、それに対して怒る人も殆どおらず、恥をかくこともあまりないでしょう。でも、郷に入っては郷に従え、この地で長く生活しているのであれば、食事の習慣をきちんと知っておくのに越したことはありません。地方や家庭によって独自の習慣ももちろんありますが、ここでは基本的なマナーや習慣、レストランの食事で注意すべき点などについて紹介します。
食事の基本的マナー
まずは、家庭、外食を問わず、知っておくとよい基本的なマナーについて紹介します。
お茶碗とソーサーはセット
ベトナムで少し改まった席で食事をするとき、テーブルにお茶碗とお皿が重ねて置かれています。このお皿はあくまでも「ソーサー(受け皿)」ですので、重ねた状態のまま使用し、骨や貝殻などが出たときに、このソーサーの上に置くようにします。但し、お茶碗にまだ別の料理が入っているけれど、他の料理を取り分けたいときには、このソーサーを料理皿として使っても問題ありません。
(C) VIETJO Life
日本だと、骨などの食べかすが出たとき、家庭であれば元の料理皿のヘリなどに載せてしまうこともよくありますが、ベトナム人から見るととても汚らしく感じるようです。ベトナムでは床の下に落とすのが昔からのやり方ですが、今は家の床もきちんとしているので家ではやりませんし、外食でそのようなことをすると下品だと思う人が増えています。そのため、食べかすを出すためのお皿などが用意されていない場合には、テーブルの上に紙を敷いてその上に載せたり、紙がない場合はテーブルの上に直に置いたりしています。
丼に口をつけず、必ずスプーン使う
日本でベトナム料理が広まるにつれてあちこちで紹介されるようになったので、ご存知の方も多いかと思います。日本ではラーメンやお蕎麦を食べているとき、丼に口をつけてスープを飲むことは特に問題ありませんが、ベトナムでは男性であっても人前でやると非常に恥ずかしい行為のようです(誰も見ていなければやっている人もいますが)。フォーのお店で日本人がこれをやってしまい、店中の人がそっちに注目しているのを目撃したことがあります。必ずスプーンですくって飲むようにしましょう。日本では男性の場合、丼を持ち上げて食べる人がいますが、ベトナムでは置いたまま食べます。
(C) NgBK
また、食事の際には、お箸またはフォークに必ずスプーンも一緒に用意します。麺料理やワンプレートランチの場合には、最初から利き手にお箸またはフォーク、反対の手にスプーンを持って食べます。家に誰かが食事に来たときも、スプーンもセットで用意しておくようにしましょう。
人に料理をとるときは、箸を裏返す
ベトナムでは、料理は大皿で出てくるので、各自が自分の茶碗に取り分けます。他の人が遠慮していたり、手が届かなかったりしたときに、取り分けてあげる機会があると思いますが、ごく親しい身内以外の人に取り分ける時は、箸の反対側を使います。但し、自分が食べるものについては直箸で大丈夫です。
ご飯はかきこむ
ベトナムのお米は日本のものとは違ってパサパサしているため、お箸で取り上げてもボロボロこぼれやすいこですし、白ご飯のままではなくおかずの汁やスープをかけて食べるため、お茶碗に口をつけてかき込むようにして食べます。
「二人箸」は問題なし
ベトナムで日本人がよくびっくりするのが、一緒に食べている人に「二人箸」を頼まれること。二人箸というのは、二人一緒に一つの食べ物を挟む行為のことで、日本ではお骨を拾うときの動作を連想させるためタブーとされていますが、ベトナムでは全く問題なし。日本のタブーとされている箸の使い方は、ベトナムでは殆ど問題とされません。一緒に食べている人が料理が長く繋がって切れずに困っている場合は、二人箸で助けてあげましょう。
食事・飲み会にまつわる習慣
次に、日本とはちょっと違う食事や飲み会での習慣について紹介します。
家庭では晩酌しない
日本では、家でご飯を食べながらビールを一杯、なんていうのも普通ですが、ベトナムでは日常的に家で飲む人は稀です。お酒はあくまでもみんなで集まった時に飲むものという考えがあるようです。夕食の時間が早いこともあって、家庭を持つ人は家で食事をしてから友達と飲みに行くというパターンが結構多いです。
乾杯は何度も、飲む前に必ず乾杯
(C) NgBK
日本では乾杯は最初の1杯だけですが、ベトナムではグラスを口に運ぶたびに何度も乾杯します。逆に、乾杯もせずにグラスを一人で傾けるのは失礼。飲む前に形だけ周りの人に軽くグラスを合わせてから飲みます。
基本は手酌
日本では手酌させるのは失礼だと考えてしまいますが、ベトナムでは基本的に手酌。ビール瓶や缶の場合も、1本を複数のコップに分けるのではなく、1人1本頼むのが普通なので、大瓶はあまり普及していません。ハードリカーの場合は大瓶をみんなで分けて飲むので、他の人に注いであげることがありますが、相手のグラスを受け取って自分の手元で注いで渡したり、テーブルに置いたまま注ぐのが普通です。
狭い部屋でも大丈夫、ご飯は床に並べる
(C) NgBK
ベトナムでは、家に親戚や友人を大勢招いて宴会をすることがよくあります。大部分の人がそれほど大きい家に住んでいるわけでもなく、普通の家に大きなテーブルやたくさんの椅子があるわけではないのにどうして?と思う人もいるかもしれませんが、ベトナム家庭の宴会では、テーブルや椅子は必要なし。床に料理を並べてしまいます。元々ベトナムではテーブルを使わず、大きなお盆などに載せた料理を床に置いて食べており、今でも田舎では最初から「食卓」がない家が多いです。
誘った人がおごる
ベトナムでは割り勘という習慣がほとんどなく、誘った人がおごるのが一般的です(但し、日本と同じく「今回は俺が払う」「いや俺が」的な押し問答があります)。つまり、みんなに奢るだけのお金がなかったら誘いませんし、誘われておごってもらったら、次は誘っておごり返すのが礼儀。但し、収入が少ない若い人たちの間や、同窓会といった集まりでは、割り勘にするのが一般的です。
お誕生日会はお誕生日の人がおごる
ベトナムではお誕生日のお祝いは、満1歳のときに盛大にするだけで、それ以降は祝わないのが普通。最近になって都市部では子供のお誕生日会を開くケースが増えてきました。そんなわけで、大人がお誕生日会をやるというのはどちらかというと、わいわい騒ぎたい口実のようなもの。だいたいお誕生日の人が言いだしっぺになり、招待してみんなにご馳走するということになっています。但し、ほかの人が言い出しても、結局お誕生日の人がご馳走することになりますので、ほかの人から「あなたのお誕生日会やろう!」と持ちかけられたら、お財布と相談を。そして、いつも人のお誕生日にばかり出席しているのではなく、きちんと自分のお誕生日に招待するのを忘れずに。
外食するときの常識
日本では外食のときに、当たり前のものとして享受している無料サービスが、ベトナムでは有料だったりしますので、注意が必要です。
おしぼり、お茶は有料
(C) VIETJO Life
日本では席に座れば無料で水、おしぼりが出てきますが、ベトナムでテーブルに置かれているおしぼりは有料で、だいたい2000VND(約11円)チャージされます。お金がかかるし、香料がきつかったりするので、最近はベトナム人でもウェットティッシュを持ち歩く人が増えてきました。
また、ベトナムではお水が無料で出されることは基本的にありませんので、お茶を注文します。これもだいたい1杯2000VNDから。お水を飲みたい場合はボトルウォーターを買うことになります。ただし、カフェなどの場合は頼んでいないのに、コーヒーなどと一緒にお茶が出てきますが、これは無料。食堂で最初からテーブルに備えつけられているポットに入ったお茶も無料です。
机の上のものは、食べた分だけチャージ
お店によっては、テーブルの上にバナナの葉に包まれた肉加工食品やお菓子が置いてあることがありますが、これは無料ではなく、食べた分だけ支払わなければなりませんので、注意しましょう。
テーブルにある紙でお箸やスプーンを拭く
(C) NgBK
お手拭とは違い、テーブルの上に置いてある紙(紙ナプキンやトイレットペーパー)は無料。口を拭くだけでなく、屋台や庶民的なお店の場合はお箸やスプーンがあまり清潔ではないと考えられますので、まずこの紙でお箸やスプーンを拭くのが一般的です。男子が女子と一緒に行った場合には、お箸やスプーンをとってあげるのはもちろんのこと、きちんと紙で拭いてから渡します。
支払いはテーブルで
日本では、支払いの際出口近くのレジに行くのが普通ですが、ベトナムではテーブルで会計を済ませます。これがなかなか便利なのですぐに慣れるのですが、逆に、日本に帰国したときにその調子で店員さんを呼んで恥ずかしい思いをすることも・・・。ベトナムでは、レシートの間違いがよくありますので、たくさん注文したときは料理や品数が合っているかどうか確認をしましょう。
ベトナムの食事マナーはあまり厳しくありませんが、南部より北部のほうが決まりごとが多いようで、テーブルに全員が着席してから、その席の最年長者が促してから箸をつけるといった習慣があるようです。ちなみに、ベトナムには「いただきます」に該当する言葉がなく、しいて言えば、招いた側や年長者が「Xin mời(シンモイ、どうぞ)」というのが食事のはじまりの挨拶になります。「ご馳走様」もありません。自分の住んでいる地域の食習慣にあわせながら、日本の食事の習慣との違いを教えてあげると、話がとても盛り上がりそうですね。