ベトナム人の名前の構成
ベトナム人口の9割近くを占めるキン族の名前は、中国文化の影響で漢字が元になっており、その並び順も中国や日本と同様に「姓(họ、ホ)」→「名(tên、テン)」の順に並んでいますが、その間に「クッションの名」という意味の「tên đệm(テンデム)」というものが入ります。これは、英語的に分類するとミドルネームになります。
họ(姓) + tên đệm(クッションの名) + tên(名)
それでは、まずこの3つについて概要を説明します。
họ(姓)
姓は原則として1語からなります。姓は通常父方のものを代々受け継ぐぎますが、「Nguyễn Lê ~(グエン・レ・~)」のように父親の姓のあとに母親の姓を付け足すケースがあります。この場合、1つ目の姓がその人の正式な姓であり、2つ目の姓はミドルネームとみなされます。姓の種類については後で詳しく説明します。
また、王族や貴族の血を引くような名門の場合、姓のあとにもう1語付け足して、同じ「グエン」でもどの血筋の「グエン」なのか見分けています。例えば、「Nguyễn Phước(阮福、グエンフオック)」「Nguyễn Hữu(阮有、グエンフー)」などです。この場合、この2語ともが姓と言えますが、最初の1語が姓、2語目はミドルネームとして扱われます。阮王朝のあったフエの名門出身者によくこのような名字が見られます。
tên đệm(クッションの名)
姓と名の間に挿入されるtên đệmは一般的に、男性か女性かを区別するためにつけられるもので、男性には「Văn(ヴァン)」、女性には「Thị(ティ)」が用いられます。そのため、tên đệmを見れば男性なのか女性なのかを区別することができます。日本で言う「郎」「子」のような感じですね。現在、日本では「○子は昭和の名前」なんてからかわれたりしますが、ベトナムでも古いイメージになってきており、tên đệmを姓名に入れないケースが増えています。
tên(名)
名は、原則1語もしくは2語からなりますが、2語で構成される場合、後の1語のみを名乗るのが普通で、1語目はミドルネームとみなされます。つまり、「あなたの名前はなんですか」と聞かれれば、通常最後の1語のみを言いますし、英語でファーストネームという場合も、名前の最後の1語のみを指します。2語続けて呼ぶのは、同じ名前の人を区別する場合など、限られているようです。学校などの名簿も、名前の最後の1語の頭文字をアルファベット順に並べるのが普通だそうです。
名に使う単語は、男性に使うもの、女性に使うもの、両方に使えるものがあります。次回、代表的な名前を紹介していきたいと思います。
ベトナム人の姓:上位3種で人口の6割も
それでは、姓について詳しく見ていきましょう。
ベトナムでは自分の名前を言う際、フルネームや名字ではなく、ファーストネームだけを言います。というのも、日本では最も多い名字「佐藤」「鈴木」「高橋」の3つを合わせても全体の4%程度に過ぎないのに対し、ベトナムでは「Nguyễn(グエン)」だけで人口の40%近くを占めているからです。ということは、40人のクラスで「グエンさん」と呼ぶんだとすると、半分近くの人が「はい!」と元気よく手を挙げる結果に・・・。また、ベトナムでは上位3種で人口の6割、上位14種で人口の9割近くを占めます。日本では約29万もある姓の種類が、ベトナムでは250程度しかないと言われています。
こんな状況では、名字で呼んだり名乗ったりする意味がありません。普段から名字を言う機会がないので、ベトナム人は親しい友人であってもフルネームを知らないことがよくあります。実際に「グエンさん」と呼びかけたとしても、ファーストネームが「グエン」という人(たまにいます)以外は振り向きません。
では実際に、主要な姓の構成比率を見てみましょう。Wikipediaに掲載されていたレ・チュン・ホア氏の研究データに基づいたもの です。
ベトナム人の名字の多くは、王朝の名(王の姓)からとられています。新しい王朝に変わったとき、反体制である出自を隠すために現行の王家の名を姓とした、などの理由が考えられます。ですから、最後の王朝「阮(グエン)」姓が最も多いようです。
ちなみに 「グエン」という姓は、世界で4番目に多い名字 なんだそうです。ベトナム人及び世界各国に帰化したベトナム系の人たちの中で圧倒的に数が多いことと、中国でも多数派ではないですが少なからず「グエン」さんがいるためと考えられます。
なお、 上の表以外にも漢字で表せる少数派の名前がたくさんあります が、その多くは中華系の人たちのようです。
結婚しても姓は変わらない
日本では、結婚したら夫婦は同じ姓を名乗りますが、ベトナムでは結婚しても姓を変えることはありません。生まれた子供の多くは父親の姓を受け継いでいますが、母親の姓を受け継ぐこともできます。例えば、母親の兄弟が女性ばかりで家系を受け継ぐ人がいないという場合、複数生まれた子供の誰かを母親の姓にするというケースがあるようです。
ところで、ベトナム人の「名」のほうも日本ほどバリエーションがない上、発音が似ている言葉が多いので、日本人には頭の痛い問題ですよね・・・。 次回 は、ベトナム人の名前にはどんなものがあるのか紹介します。
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