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ベトナムの選挙制度~投票率99%!そのワケは?~

ベ// JST配信
2016年5月22日(日)、ベトナムでは第14期国会議員及び各級人民評議会(省・中央直轄市レベル、区・郡レベル、街区レベルの地方議会)議員の選挙が行われました。街中のいたるところで投票を促す看板や横断幕を目にするわりには、日本のような選挙運動が行われている気配がないので、不思議に思った人も多いのでは。そして、報道される脅威の投票率。限りなく100%に近い数値はホントなの!? そこで、ベトナムの選挙制度や投票率の高さの理由、実際の投票のやり方について解説します。

(C) VIETJO Life
 

ベトナムの選挙権は満18歳以上


ベトナムで最初に総選挙(国会議員選挙)が実施されたのは、ベトナム民主共和国成立後の1946年1月6日のこと。これによって成立したのが「第1期国会」で、2016年の選挙は「第14期国会」議員を選ぶものでした。 選挙権は満18歳以上、被選挙権は満21歳以上となっています。

国会議員の任期は原則として5年。以前は、国会議員と地方議会である各級人民評議会議員の改選時期が同じではありませんでしたが、2007年の第12期国会の際に議員の任期を1年短縮して、次の2011年の総選挙から国会と各級人民評議会の選挙を同時に行うことになりました。

国会議員の議席数は500。 2016年の場合、各地方から選出される議員枠が302、中央機関選出の議員枠が198人となっています。第14期国会(2016~2021年任期)では870人が立候補しており、立候補者全員が信任されるのではなく、落選者が出ます。

ベトナムで政党は共産党しか認められていないため国会議員は全員共産党員かと思われがちですが、議員の中には非党員も1割近く含まれています。芸能人の立候補もあり、話題になります。基本的には候補者の殆どが組織の推薦を受けていますが、どこからも推薦を受けない自薦による立候補も可能です。但し、共産党が主導する「ベトナム祖国戦線」という組織が審査を行って候補者を最終決定するため、誰でも選挙に出馬できるというわけではありません。

また、国家主席や首相などは、総選挙が実施される前、前期国会の最後に決定されます。国会組織法では「国家主席、国家副主席、国会議長、国会副議長、国会常務委員、民族評議会議長、国会委員長、並びに首相は国会議員でなければならない」と規定されているため、これらのポストに選ばれた人はあくまでも暫定就任となり、他の候補者と同じく総選挙に立候補し、当選してはじめて正式に就任することになります。実際に総選挙で落選する人がいるかどうかは別として、 総選挙を通じて国民がこれらのポストに就いた人に投票しない(信任しない)という意思表示を行う機会が残されている という点で、中国など他の社会主義国に比べて民主的な選挙制度であると考えられています。

選挙形式は 中選挙区制 を採用しており、全国182の選挙区に分けられ、各選挙区からだいたい2~3名が当選します。


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投票率は脅威の99%!


日本は投票率の低下が嘆かれていますが、ベトナムの投票率はなんと99%に達しています。1946年の第1期国会議員選挙の投票率は初の総選挙ということもあり89%と高いものでしたが、 2016年の第14期国会議員選挙の投票率は98.77% と発表されており、中には99.99%を記録している省もありました。2011年に実施された第13期国会議員選挙の投票率は99.51%に達しました。

しかし、例えば地方から出稼ぎに出て都市部に一時的に滞在している人たちは、今いる場所で投票することができません。期日前投票のような制度もなく、急用でどうしても投票できない人もいるでしょう。それなのに、なぜこのような投票率になるのでしょうか。これには「からくり」があります。

ベトナムでも投票所で有権者カードを見せて投票用紙を受け取りますが、その際に日本と同じく身分証明書を提示する必要がありません。そのため、法律では有権者本人が投票を行わなければならないと定められているものの、実際には 家族などによる代理投票が横行しています。 それぞれの投票所は規模が小さく、顔見知りの人がたくさんいますが、誰もとがめる人はいません。

この背景には、地域の投票率がそのまま地区の「成果」とみなされることがあります。地区選挙管理委員会の人たちは投票率を限りなく100%に近づけるため、投票に来ていない人を家まで何度も呼びに行ったり、代理投票を促します。そのため、一度も投票に行ったことがないという人が数多く存在します。
 

選挙運動は行われない


日本では選挙にあたって選挙運動はつきもので、テレビでも政見を発表する機会が与えられていますが、ベトナムではそういった選挙運動は行われません。学校など公共施設や集合住宅のロビーなど、人が集まる場所に候補者一覧と候補者の履歴が貼りだされる程度です。同僚からは家にもリストが配布されているという話も聞きましたが、我が家には届きませんでした。


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写真はホーチミン市1区にある小学校前に掲示された候補者一覧。国会及び3つの人民評議会で4枚あります。ホーチミン市の1区、3区、4区がひとつの選挙区になっています。国会議員候補の中には、国家主席に選ばれた チャン・ダイ・クアン氏 も含まれていました。


(C) VIETJO Life, 裏側は候補者の履歴書。雨に濡れないようビニールカバーつき
 

投票の流れ



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投票の1か月ほど前に候補名簿が発表され、投票の20日前に候補者名簿が掲示されます。そのころにはあちこちに選挙に関する看板や横断幕が掲げられて、街中が赤で彩られます。


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一部の地区では、祝日でもないのにベトナム国旗が各家の前に掲揚されていました。おそらく地区の選挙管理委員会の指導で掲げられているのだと思いますが、5年に1回しかないですから、ちょっとした「祝い事」という感覚なのでしょうか。


(c) VIETJO Life, 有権者カード

投票の前に、 各有権者の家に有権者カード(Thẻ cử tri)が届けられます。 我が家には選挙の5日前に、郵送ではなく地区の選挙管理委員をやっているらしき人が直接家まで届けてくれました。

投票時間は朝7時から夜7時までとなっていますが、地区の事情により朝5時から夜9時まで延長可能となっています。多くの投票所では投票率を限りなく100%に近づけるため、時間を延長して実施しています。


(C) VIETJO Life, 投票所の入り口

投票日には、あちこちに投票所が設けられます。ホーチミン市だと人口が多いため、1つの街区の中に複数の投票所が設置され、学校などの公的施設だけでなく、廟や会社、マンションのロビーにまで投票所に早変わり。目と鼻の先に投票所が並んでいることもあります。手軽に投票できるというのも投票率を高める重要なポイントかもしれません。

投票所で係員に有権者カードを見せると、名簿の名前をチェックされ、隣の係員が入場者数をカウントする表(□を書いて斜め線を入れ5画を書いてカウントする方法)に記入。更に隣の係員に有権者カードを見せて投票用紙4枚(国会議員1枚と各級人民評議会議員3枚)を受け取ります。この時も数を受け取り人数をカウントします。投票用紙の枚数管理はきちんとしているようです。


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2016年選挙の際の投票用紙はA5サイズで、上の図のような形式になっています。紙の色は、国会議員選挙がピンク色、省・中央直轄市レベルの人民評議会議員選挙が青色、区・郡レベルの人民評議会議員選挙が黄色、街区レベルの人民評議会議員選挙が白となっていました。

投票所内にはきちんと仕切られカーテンがつけられた記入ブースが設けられています。ブースの中には、街中に掲示されていたものと同じ候補者リストが壁に貼り付けられています。壁に取り付けられたカウンターテーブルの上には、紐で固定された赤茶色の細めのクレヨンと定規が。ベトナムの選挙では、名前を記入するのではなく、 「信任しない候補者」の名前を線で消す という方法がとられています。


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例えば定数が3人のところ5人が立候補している場合、2人以上の名前を1本線で消して、3人以下の人を「信任」します。 名前の下に線を引いたり、○や×をつけたり、候補者以外の名前を書いたり、あるいは定数以上の候補者名を消さずに残してしまう、というのはいずれも無効票になってしまいます。記入ブース内に記入の仕方が書かれてはいるものの結構煩雑なので、投票率が高くても無効票が多いのではないかという気がします。4枚の投票用紙すべてを記入するのに何十分もかかってしまう人もいたりして(なにせ家族全員分一度に投票する人もいますから)、朝方の投票所はかなりの行列になります。ベトナム人のご家族の中で投票へ行く人がいる場合は、午後の時間帯をおススメします。

記入が終わって外に出ると、投票箱が4つ並んでいるので、それぞれの投票用紙と同じ色の箱に、投票用紙を必ず半分に折りたたんで投入します。日本の投票用紙のように折りたたんでも自然に開くような特殊な紙を使っているわけではなく、普通の紙ですので、折りたたんでしまったら開票に手間取るのではないかと思いますが、政党の争いがありませんので、開票を急ぐ理由があまりないのだと思います。投票の秘密が守られていますよ、という意味もこめられているのかも。

投票が終わると、出口のところで有権者カードに「投票済み」の判子を押してもらい、投票所を出た人数のカウント表にチェックして、終了です。有権者カードと投票用紙が引き換えではなく、返してくれるというのがちょっと不思議に思ったのですが、おそらく投票に行くよう呼びに来た人に対して行ってきた証拠を見せられるようにするためではないかと推測します。

日本のように出口調査や「当選確実」のような速報はまったくありません。2016年の選挙の場合、投票日は5月22日に実施されましたが、各級人民評議会議員選挙の結果が6月1日、国会議員選挙の結果が6月11日の発表となっています。


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ベトナムでは外国人は選挙に参加できませんが、だからこそどうなっているのか実態がどうなっているのか知られておらず、興味のある方も多いのではと思い、今回の記事をまとめてみました。ちょっとマニアックになりましたが、ご参考に。

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