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ネコはペットではない
ベトナム人の多くは動物を「番犬」や「食用」といった実用的な目的で飼っており、ネコの場合は家の中のネズミを追い払ってくれる益獣として、飼うというより家を自由に出入りさせています。
イヌは、名前を呼べば飛んで来るし、飼い主が帰ってくれば大喜びするため、番犬という役割だけでなく、ペットとしてもかわいがられる可能性が高くなりますが、ネコは基本的にイヌのようには懐かないので、あくまでも実用がメインで、名前をわざわざつけないのが普通になっているようです。周辺をウロウロしていて、どの家の所属かはっきりしないネコの生活ぶりからも、自分が飼っているという意識が生まれにくいのかもしれません。
また、イヌ(Chó)と違って、ネコの鳴き声が由来と思われる「Mèo」は、ネコを呼ぶときにとても呼びやすいので、最初に「Mèo」と呼び始めるとそのまま定着しやすい、というのもあるかもしれませんね。
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名前をつけない原因は昔話にあった?
ベトナムには、ネコがなぜ「ネコ」と呼ばれるのか、その理由の一つと思われる昔話 『ネコはネコに還る(Mèo lại hoàn mèo)』 というのがあります。この昔話のせいでなおさら、ネコに名前をつけないというのが当たり前になったのかもしれません。話の設定には諸説あるのですが、大まかに次のような物語です。
昔話『ネコはネコに還る』
昔々あるところに、ネコを飼っている男がいました。自分のネコを「誰よりも賢い」と思ったお爺さんは、そのネコを「天」と名づけました。
友人が遊びに来た日のこと。男がネコを「天」と呼んでいるのを聞いた友人は驚いて、こう尋ねました。「なんでネコを『天』だなんて呼んでいるんだい?」
男は、「うちのネコは極めて貴重なネコだから、『ネコ』だなんて呼べないよ。天以上の人はいないから、『天』と呼ぶのがぴったりだ」と答えました。
それを聞いた友人はこう言いました。「でも、雲は天を隠してしまうじゃないか」。男はこう言いました。「それなら、『雲』と名づけよう」。
しかし友人は続けます。「風は雲を吹き飛ばしてしまうよ」。男はこう返します。「それなら『風』と呼ぶことにしよう」
「でも、壁は風を止めてしまうぞ」、「それなら『壁』と呼ぼう」。「でもネズミは壁に穴を開けるぞ」、「それなら『ネズミ』にしよう」。「でも、ネコはネズミを捕まえるじゃないか」、「そういうことなら、やっぱり元のとおり『ネコ』と呼ぶとするか」。
こうして、ネコの呼び名は「ネコ」になったのでした。
この物語は、「本質に見合った名前をつけるべき」という内容から転じて「名前に惑わされず本質を見るべき」、「その本質に相応しい立ち位置であることで、万事うまくいく」といった意味に解釈されています。
日本には、これと似た昔話 『ねすみの嫁入り』 があります。ネズミの父親が、世界で一番強い者に娘を嫁がせようとし、太陽→雲→風→壁→ネズミと、結局最終的にネズミに嫁がせることになったという話。原型となった話がベトナムの『ネコはネコに還る』と同じかもしれません。
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ベトナムのネコはちょっとかわいそう・・・
ベトナムの都市部では、日本のようにネコが道端でのんびりしている姿を目にすることは殆どありません。人間とネコの関係が日本のように近くないため、ネコの警戒心がかなり強いように思います。夜になると、屋根の上でネコが集会しているのを見ることがありますが、野良ネコ、半野良ネコたちですので、毛並みが汚れていて貧相なネコが殆どです。
ベトナムの家は通気を良くするために入り口や窓を開け放しているケースが多いため、きちんと飼っている家庭では、ネコを紐でつないでることが多いです。外に出てしまうと帰ってこない可能性が高いからです。
(C) NgBK 右のネコは紐でつながれている
実は、 ベトナムでは北部を中心に、ネコ肉を食べる習慣があります。 ネズミの被害が大きくなった1998年、首相の指示でネズミの駆除に役立つネコの肉の売買や提供が禁じられましたが、猫肉は体が温まり体に良い珍味「小さなトラ」として今でも一部で食べられています。そのため、警戒心の弱い飼いネコが外をうろうろすれば、あっという間に捕まって食用にされてしまう、というわけです。
また、一部の人は「Mèo(メオ)」の発音が「Nghèo(ゲオ)」=「貧乏」の音に似ているため、ネコが家に入ってくるのを嫌がります。最近の若者言葉では、「○○のような▲▲」と言いたいとき、○○と▲▲の母音の発音を同じにするというのがはやっており、貧乏であることを強調したいときは、「Nghèo như con mèo(ゲオニューコンメオ)」(ネコのように貧乏)と言ったりします。
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最近のネコの名前事情
現在の都市部では、ネコをペットとして飼う人が増えてきており、そういう人たちはネコにちゃんと名前をつけています。圧倒的に多い名前は「Mi mi(ミミー)」だとか。子ネコの鳴き声が由来のようです。そして、ネコの人気キャラクターにあやかった「Kitty(キティ)」、同じ音を繰り返す「La La」のような名前が好まれています。但し、ベトナムではイヌやネコにベトナム人のような名前をつけることはまずありません。
売られているペット用品もイヌが主流で、ネコ用品は数が限られていますが、以前に比べればかなり種類がかなり増えました。ホーチミン市には 日系の 動物病院 、 グルーミングサロンやペットショップ も進出しています。
在住日本人の中でもネコを飼う人が増えてきているようですが、かくいう筆者も最近ネコを飼い始めました。冒頭の写真のように家の窓の鉄格子を金網で囲って、ネコが外に出ないようにして生活しています。
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ちなみに、筆者の家のネコは三毛猫ですが、ベトナムでは「Mèo tam thể(メオタムテー)」(tam thể=三体)と呼び、日本や中国と同様に幸運を招くと考えられており、飼い猫として人気がありますよ。